脳脊髄液減少症とは
人間の脳や脊髄は、無色透明な「脳脊髄液」で満たされていて、主に脳や脊髄を衝撃から守るクッションの役割を果たしています。この脳脊髄液が、交通事故やスポーツ外傷などの外力によって脳内に強い外力がかかると、脳脊髄液腔から漏れてしまうことがあります。脳脊髄液は脳と脊髄の周りを一日に三回循環しますが、前記のような原因で、その髄液が減少すると、髄液の量が減少した分、髄液圧が下がります。それによって、脳や脊髄から伸びる神経に影響を及ぼし、その結果、頭痛、頸部痛、目眩、吐き気、倦怠感、腰痛、記憶障害、頸部関節痛、胃腸障害、頻尿、脱水症状などに襲われて、日常生活や就労、学業などに支障をきたし、就労不能や不登校になることもあります。
しかし、この脳脊髄液減少症は、MRIなどで様々な検査を行なっても異常を認める事ができないことが多いため、残念ながら医療の現場でも、まだ認識が低いのが現状で、患者さんが症状を訴えても、うつ病などの精神障害、起立性調節障害、自律神経失調症などと診断されてしまうことがあります。ましてや、一般の方々の認知度はもっと低いため、患者さんが症状を訴えても、周囲からは「だらしがない」「怠けている」「仮病だ」などと思われてしまうことが多く、このことが患者さんを更に苦しめる要因ともなっています。そうした周囲に理解されない患者さんの苦痛は、体調不良に加えて、精神面でも落ち込んでしまい、日常生活を意欲的に生きる力が失せてしまうばかりか、中には人生に絶望する人もいます。
こうした周囲の理解の無さに加えて、脳脊髄液減少症の患者さんを苦しめている別の要因として、保険の問題があります。通常、私たちが病気になった時、「診断報酬制度」、つまり保険適応になるかどうか、という事は、かなり大きな意味合いをもちますが、国民健康保険や共済組合、会社で加盟する健康保険である社会保険(強制保険)に加入しているだけで、万が一、病気になっても、治療費の多くは、国が負担してくれるからです。そして、この診療報酬制度に登録されている病気とは、事実上、「国が認めている病気」ということになり、生命保険、その他損害保険、労災、交通事故に遭った場合の自賠責保険にいたるまで、その影響を受けています。
しかし、残念ながら脳脊髄液減少症はまだ「国がに認めた病気」ではないため、患者の方々は病気そのものに加えて、こうした治療費や保険の問題でも苦しむことになってしまうのです。そのような問題を解決しようと「仮認定NPO法人脳脊髄液減少症患者・家族支援会」では、この病気を全国的に認知してもらうための啓発活動を行っています。その結果、治療費を受けて症状が改善する患者の方が増えていき、各地に患者会も設立されています。こうした協会の活動は、行政や国をも動かし、協会設立から9年後の2011年5月、ついに厚生労働省から「脳脊髄液漏出症診断基準案」(ガイドライン)が国に提出されました。これは国が「外傷を契機とした脳脊髄液減少症の病態」について推論上認めたことを意味しています。更に2012年5月には、脳脊髄液減少症の治療に有効なブラッドパッチ療法が先進医療として認められ、保険適応への大きな一歩を踏み出しています。しかし、これは一定の条件を満たす症例にしか適用されず、今後、適用の拡大が望まれます。
では実際に、脳脊髄液減少症と疑われる症状が現れた場合、どのように対処したら良いのでしょうか?発症早期の場合には、まずは、安静にして、水分補給という保存的加療が有効です。この保存的加療の効果が不十分な場合には、ブラッドパッチという、髄液を含む硬膜の外に自分の血液を注入して、髄液の漏出を止める治療を施す事もあります。この脳脊髄液減少症に対するブラッドパッチの有効率は約75%で、特に思春期発症症例では90%以上(特に発症から治癒までの期間が5年以上の場合)の治療効果が認められています。
この脳脊髄液減少症の診断には、「うつ病」や「怠け病」などと判断せずに、まず疑い、患者さんの訴えに耳を傾けることが必要です。
仮認定特定非営利活動法人 脳脊髄液減少症患者・家族支援協会 045-716-4646 http://www.npo-aswp.org/
脳脊髄液減少症治療の権威 山王病院脳神経外科 高橋浩一 先生 http://www.takahashik.com
参照文献:
「むち打ち症を治すための8つの鍵」柳澤正和(一般社団法人 むち打ち治療協会 代表理事) 著
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